New Album
「Applause」全曲解説

New Album
「Applause」全曲解説

12月2日にリリースされるストレイテナーのニューアルバム『Applause』。そこに収録される全11曲を聴きながらメンバー4人で語り尽くした、スペシャル座談会!


1.Graffiti

日向 (流れ出してすぐに)イントロが壮大だよね!

――今作の中では最初に発表された楽曲ですが、できたのも最初だったんですか?

ホリエ できたのは「Parody」のほうが最初でした。ただ、年明け一発目のレコーディングで「Graffiti」と「Parody」を録っているんです。この曲ができた時は、アルバムの全貌は見えていなかったよね。

ナカヤマ “シングル”っていう感じでやった気がする。

ホリエ ほんっと、遥か昔のことのようだよね。

日向 3年前ぐらいみたい(笑)。

ホリエ そうそうそう(笑)。だから、このアルバムに入るんだ!?ぐらいのイメージ。でも、今年の初めなんですよね。これは、去年、同期のバンドとの対バンツアーがあって、今の自分たちの立ち位置というか……今までもそれぞれ闘ってきたと思うんだけど、これからさらにストレイテナーなりの方向を示すというか、そういうのを考えさせられたことが、この曲に表れていると思います。

ナカヤマ これを作っていた頃は、ライブできなくなるなんて思っていなかったよね。

日向 テレビに出ていたし。

ホリエ そうそう、なんとか収録したものが流れたんですよね。

ナカヤマ まだ体にも入っていないしね。

ホリエ リリースしてから、ライブでできたのは10月、まだ1回だけ。3月ぐらいから、ライブは全部ストップしちゃったから。ある意味、最後の曲みたいなね、ひとつの区切りの曲みたいなことに、結果なってしまったという。本当は、これからの曲だったのにね。

日向 もったいなっ!

ナカヤマ それがまた、俺たちっぽいんだよね(笑)。

日向 なぜ、このタイミング(笑)。

――作った時点では、ライブのイメージもあったということですよね。

ホリエ そうですね。野外で演奏するイメージもありました。

日向 俺たちなりのダンスチューンぐらいな感じだったし。

ホリエ そう。ダンスチューンを更新するっていう意味で。

――このテンポの曲をダンスチューンとして出す、それが今のストレイテナーというか。

ホリエ そうですね。広がりを見せるというかね。包み込むような高揚感を、この曲では出したかった。

日向 そしてイントロが壮大!

――本当に (笑)。大山さんはどうですか?

大山 俺の中で流行っていた音作りをしたんですよね。ずっとループが鳴っているのをギターで作るっていう。それをこっそりのせたら、壮大になった。

ホリエ 「これはシーケンスなの?」「ギターです」って言うのが気持ちよかった。

日向 最初のッキキキキッはOJだもんね。でも、(ライブの)本番ではできないでしょ?

大山 やってるよ。

日向 やってんの!?

大山 一本鳴らして、一本弾いている。

日向 すごいな。

――個々がいろんな引き出し開けているところも、ダンスチューンを更新したところも、そして歌詞も含めて、今のストレイテナーだからできることを感じますね。

ホリエ そうですね。

ナカヤマ タイトルからして「Graffiti」だもんね。うまいよね。全部のバランスが。よくできました!

ホリエ シングルだったけど、改めてアルバムに入ると、すげえいいい曲だと思う。1曲目って、すごく悩むんですよ。なるべくシングル曲にしたくなかったりもするんだけど、このアルバムの中では一番はじまりの合図感があると思って。

日向 Bメロのキメを、最初ホリエくんが恥ずかしがっていてさ。ババッバーンって、恥ずかしくない?って俺たちに訊いてきたのが印象的でした(笑)。

ホリエ ははははは! Bメロ、ダサくなっちゃってもいいですか?みたいなね。基本はハネるダンスビートなんだけど、Bメロだけ急にロックで頭打ちでドドスッターン、っていうキメが入るとか、どうなのかなあって。

ナカヤマ 日本人に培われたビートだからね。

ホリエ それを敢えて、っていう。“敢えて”っていうのが、このアルバムの全編を通してあって。

日向 大人になっちゃったんだよ。

ナカヤマ 俺たちのダサいは、現代のダサいと違うんだよね、感覚が。

日向 前だったら、絶対やんなかったよ。けど、大人になっちゃった。

――あと今作、歌詞に関して、締めの部分にドキッとさせられる楽曲が多いんですよ。その傾向は「Graffiti」の《受け入れよう》からはじまっていると思いました。

ホリエ そうですね。過去にあった成功も失敗も、ネガティブな現実も受け入れて、だから今があるんだいうのは、ひとつありますね。この曲は、そこから前に進んでいくっていう。

2.叫ぶ星

ホリエ シリーズだよね。「泳ぐ鳥」「走る岩」、あっての「叫ぶ星」ですよ。

――その中で意識して貫いているものはあるんですか?

ホリエ ストーリー性とか。この曲で言うと、「泳ぐ鳥」のオマージュ的な意味もあって。アレンジにおいても、敢えて『TITLE』の頃のストレイテナーのフォーマットにしている。この曲を『TITLE COMEBACK SHOW』でやったのもあるかもしれないけれど、こないだ(配信シングルで)リリースしたら、ファンが「こういう曲で更新してくるとは!」という、いいリアクションをしてくれて。古参の人たちも含めてね。

ナカヤマ 『TITLE』が刺さった20代後半の人たちのリアクションが大きい気がする。

日向 エモいんだろうね。

ホリエ サウンドとメロディもエモいけど、当時よりも歌詞が格段にエモくなってるから。

日向 わかりやすいしね。

――そうですよね。『TITLE』の時だったら、ホリエくんはこういう歌詞は書かなかった。

ホリエ うん、マスクしちゃう感じ。覆っちゃう感じ。その頃は。

日向 世界観で攻めちゃう感じ。

――そこが露わになっていますよね。

日向 アレンジはめっちゃ今風ですよね。

ホリエ それをギターロックとしてやっちゃうっていう。

日向 ギリギリのギターロックだよね。ロックにさせない、って思いながらギターロックをやっている感じです。

ホリエ 最初のAメロなんか、ドラムとベースだけ。思い切ったよね。プリプロやっている時は、OJが雰囲気だけ鳴らしてたりしていたんですよ。だけど、レコーディングになったら、全然弾かなくって。だから、内心僕は「弾かねえんだ……」って思って。

大山 かたくなにこのままでした(笑)。思い切ろう、って思ったんですよね。

日向 おもろいよね、あれ。

――そのほうが、曲として面白くなるという予感があった?

大山 うん。で、2番のAメロでエッジィなカッティングが入ってくるんですけど、そことのギャップを思い切ってつけようと思ったんです。

日向 すっげえ効いているよね。

ホリエ 俺も、それこそ『TITLE』の頃だったら、ミュートで刻んでいたと思うんです。

日向 得意なやつね(笑)。

ホリエ そう(笑)。それもやらなかった。あと、落ちサビのところも、ベースだけにしちゃったんです。

日向 みんなロックにしたくないと思っているんだよ。

ホリエ 引き算ですよね、重ねないっていう。

――あと、「Graffiti」に続いて、この「叫ぶ星」、そして次の「さよならだけがおしえてくれた」と、今作はシングルがリリース順に収録される幕開けになっていますよね。さきほど、「1曲目はなるべくシングル曲にしたくなかったりもする」とおっしゃっていましたが、このような曲順になったのは、なぜなのでしょうか。

ホリエ なんかもう、しゃあなくて。

――「しゃあなくて」(笑)。

ホリエ アルバムの全編通してのストーリー性とか考えると、こうした方がいいなっていう。

ナカヤマ 今回のジャケをデザインしている美登一が、曲順をすげえ褒めていたけどね。

ホリエ ほんと?

ナカヤマ うん。たいてい、まとまりがあるアルバムでも、途中でシングルがきちゃうと流れがぶった切られるから。でも、このアルバムには、それがないって。頭に全部バババってきているから、完璧っすねって言っていた。

ホリエ そっかそっか。特にシングルが先行して幾つも出たりすると、シングルの曲として体に入っちゃっているんだよね、リスナーも。その曲の頃に時間も戻っちゃうっていうか。

日向 たしかに、浮いて聴こえるもんな。

――それが今作にはないですね。じゃあ、次に行きましょうか。語り足りないことはないですか?

ナカヤマ うん。いつもだったら、いやあライブで完成されてどうのこうの……とか言うけど、それができないよね。そういう気持ちにもならないし。だから、ある意味、純粋にアルバムのことを語れると思いますよ。

3.さよならだけがおしえてくれた

日向 この曲、すごい好き。

ホリエ チャレンジだと思う。ちなみに、この曲は最後に作ったんですけど、自分の中で腑に落ちないなら、アルバムに入れなくてもいいと思って。元々は、Aメロのコード進行だけあって、気持ちいいから、ずーっとループしちゃって、メロディとサウンドの高揚感で……「Graffiti」に近いイメージの曲にしようかと思っていたんだけど、自分の中で二転三転、変わっていって、発想をガラッと変えて、リズムも展開もまったく違うアレンジにしちゃおうって。この形にしようって決めて、4人でスタジオに入った時に、そこで試して、どうなるか、ダサかったらやめようかって。

日向 チャレンジうまくいったシリーズだから、気持ちいいね。

ホリエ このアルバムの中のどの曲とも違う存在感っていう。

日向 でも、テナーっぽく聴かせるために工夫した感じです。Aメロの質感とか、ヒップホップに近いから、世界観で聴かせたりとか。コード感も攻めているんだよね。当たる、当たんないとか、話していたよね。メジャー/マイナー、マイナー/メジャーのキワキワな解釈のところが何箇所かあって、話し合いながらアレンジしていった気がします。

ホリエ 最後にできた曲だから、このアルバムを象徴しているというか。そういうテーマではあるかと思いますね。人と人が出会う、それ以前にあった出来事とか、それぞれいくつもの別れを経験してきて、今があって、そのすべてを知って補うんじゃなくって、理解しようとすることよりも、今出会った意味と、ここから先に起こしていくことのほうが大事なんだっていう。さよならから教わったこと、気付いたことが、未来への道しるべになるっていう意味で「さよならだけがおしえてくれた」。「Graffiti」の歌詞とも通じるものがある。

――大山さん、どうでしたか?

大山 難しかったですね。スタジオでも、そこのギターが説明臭いって言われて(笑)。どういうこと!?って。

日向 説明しすぎっていう。

大山 丁寧すぎるっていう?

日向 そういうこと。

ホリエ ちゃんとコードに沿ったフレーズを弾いてたから、もっと好きに歌ってもいいと思って。

大山 あの時はプチパニックだったな(笑)。

ナカヤマ 説明しすぎ!って(笑)。

ホリエ そんな言い方していない(笑)。説明しない方がいいかな~、ぐらいな。

大山 結果、すごいバランスでまとまったなって。

日向 そうなんですよね。

――じゃあ、この楽曲も、引き算と足し算の妙が発揮されたところがあるという。

ホリエ そうですね。鍵盤の音選びも、いろいろ試して、入れてみてはなしにしてっていうのを積み重ねた結果、こうなったので。

4.倍音と体温

日向 すげえタイトルだな。

――タイトルもインパクトがありますし、アルバムとしてはシングルで発表されていない楽曲のトップバッターという流れもあって、印象的な立ち位置の楽曲になるとは思うのですが、そもそもどのような成り立ちだったのでしょうか。

ホリエ この曲が、ひとつの今の方向性だったりするんですけど。

日向 今、得意なやつだよね。

ホリエ こういう曲が先行してできていて、ある時、ぽっと「Graffiti」ができたから、それを追い抜いてシングルになったんですけど。ファンクとかソウルとか、昨今シティポップって言われるようなジャンルに片足を突っ込みながらも、そっちの畑の人はこんなサビは作らないだろうと。

日向 サビがロックの展開というのが肝だよね。普通、Aメロで閉じ込めちゃうから。

ホリエ それだけでもずっと気持ちいいんだけど、ストレイテナーなりのハイブリッドをやると、こうなるっていう。

――それも“敢えて”ですか?

ホリエ いや、これは敢えてというよりは、自然な流れでこうなりました。自分の気持ちいいのはこっちの方向性なので。

――ざっくりな感想で恐縮ですが、洒落ていますよね。

日向 トム・ミッシュですね、俺の中では。

――このぐらいのテンポ感も、今のストレイテナーにはしっくりくるというか。

ホリエ ゆったりしているけれど踊れるっていう。

日向 今、キてんじゃないかな。

ナカヤマ 楽しいしね。

日向 この世界観にハマっている自分らがカッコいいって感じます。

ホリエ そうそう。逆にライブ感があるっていうか。テンション高く、ビートも速くっていうのとは、また違うライブ感。

大山 いきなり受ける印象は、ちょっとダルい感じなんですけど、3曲目までが張り詰めているので。ひと呼吸おける感じが、すごくいいですよね。

5.Death Game

日向 これもタイトルすげえな。

――アルバムの中でも、1、2を争う激しい楽曲ですよね。

ホリエ これと、次の「ガラクタの楽団」ね。

――でも、これまでの激しい楽曲とは、違ったエッセンスも入っている。

大山 (聴きながら)こことか。

――そう、ラップの部分は大きいですね。

ホリエ ここはね、後付けだったんだけどね。このまま終わるの面白くないなって、アレンジしている時に。

日向 この曲も、相当面白いね。ハイブリッドだしね。

――ここがあることによって、今のストレイテナーになっていますよね。

ホリエ でも、ちょっと「From Noon Till Dawn」っぽくもある。後から気づいたんだけど。

――ああ、たしかに! そして、攻撃的なんだけど、歌詞も含めて、遊び心もありますよね。

ホリエ コミカル、ではありますかね。棺桶の中に入っちゃってるし。

日向 「Death Game」だけにね。負けたら棺桶だぞと。

――死だけではなく、野球やゲームのニュアンスもあって。

ホリエ 野球的に最悪のゲームセットと、上がれないスゴロク。理不尽な世界観ですね。幾つか観たアニメの展開にもあった、残酷な運命から救うために、過去に戻って何度も繰り返しちゃう系のやつ。

――この楽曲が、アルバムにある意味合いも大きいと思う。ゆったり気持ちいい楽曲が多いけれど、それだけではないっていう。

ホリエ 結果的にロックなアルバムになった印象があるんですよね。最初は「倍音と体温」みたいな楽曲が多くなるのかと思っていたんですけど、完成したらそうでもなかったっていう。

日向 しかしこれ、激しいよね。

ナカヤマ ちょっとびっくりしたもん。このテンポでいくんだ、速っ! 練習しよう!って。

日向 緊張したし。

ホリエ この曲をアレンジした後に、レコーディングまでちょっと期間が空いたんだよね。

日向 寝かせたの。

ホリエ 4月から5月は休業したから。一ヶ月ちょっと空いてからのレコーディングってなって、直前に改めてテンポを決めて、これでって連絡したら、速っ!って言われた。

日向 ついていけない(笑)。はじまったばかりのテンション、いきなり上げなきゃいけない。

――自粛明けがこの曲だったんですか?

ホリエ そう、初日のレコーディングが。

――それはすごい。でもバンドモードへの火付け役にはピッタリだったかも。

大山 俺は、レコーディング当日までイントロのフレーズが浮かばなくて。どうしようかなって考えて、効果音にしたっていう(笑)。

ホリエ これ、OJの音単体じゃなくって、4人で合わせてやっているから、弾いているんだと思っていたんですよ。メロディを弾いて、それにエフェクトがかかっているんだと思ったんだけど、OJの音だけ聴いたら、ギュヒィーンっていっているだけだったの(笑)。

日向 下手したらMR.BIGだよ。ドリル奏法(笑)。

――それ、ライブで見たいですね(笑)。

大山 いやあ、どうしようか悩みましたよ。

日向 その発狂している感じが出ているよね。

ホリエ この曲の狂い感ね。

6.ガラクタの楽団

――これは、いつぐらいにできた楽曲なんでしょうか。

ホリエ 春ぐらいです。自宅に籠ってるフラストレーションをぶつけたような楽曲ですね。

――なるほど、自粛期間中に。

日向 これをプレゼンするホリエくんの目が血走っていました(笑)。「こういう感じでいこうよ、よろしくね!」って。

ホリエ 今こんな曲作るテンションじゃないんだけど……とか言わせねえぞ!っていう(笑)。ドラクエⅣだったら「ガンガンいこうぜ」、下手したら「メガンテ」も辞さない(笑)。

日向 びっくりしたもん(笑)。

――やっぱり、フラストレーション溜まりましたよね。

ホリエ そうですね。今日はいつなんだろう?みたいな。《今日は昨日の明日/誰かが言いました》だけど。でも、結局は《大切なモノだけ/ぼくは守りたい》んですけどね。

――やっぱり、2020年という今が与えた影響も、このアルバムには大きいですね。

ホリエ そうですね。希望だけじゃなく、こういうドロドロしたものが曲に表れてもいいだろうとは、その時思いました。ロックバンドもライブハウスもいつまた活動できるかわからない。でも必要とされなくたって、吠えるのがロック、じゃないですけど。それを「ガラクタの楽団」という言葉で表したという。

日向 プレゼンの時点の眼力でわかりましたね。これは、2020年を象徴する曲にしたいんだろうな、って。

ホリエ ほんとかよ(笑)。

――歌詞、ストレートですよね。

ホリエ そうですね、剝き出しですね。《ハリボテの街》とか《がらんどうの駅》とか、まさにそうでしょう?

――まさに。ホリエくん以外は? 自粛期間中、どんな心境でしたか?

日向 途方に暮れていましたね。

ナカヤマ イライラするとかはなかったですね。どうしたもんかねえ、まいったなあっていう。怒ってもしょうがないですからね。怒る相手もいないし(笑)。

――たしかに。

日向 まあ、メンバー何やってるのかな?とは思いましたよ。LINEで聞くことでもないしね。「何してるの?」って(笑)。

――仲良しだなあ(笑)。

日向 やってもいいけど過剰かなって(笑)。

――「ガラクタの楽団」とは、自分たちのことなんですか?

ホリエ そっくり自分たちのこととして書いているわけではないですけど。風刺的な側面もあるし。何に向かってメッセージするとか、何を目的に音楽を作るとかを考えた時に出てきたフレーズですね。

ナカヤマ こういうのが出てくるのが頼もしいですよね。みんなを癒すぜじゃなく、ガンガンいこうぜっていうのが大事ですよね。

日向 一番大事だよ。

ナカヤマ やってやんぞ!っていう。

日向 他のバンドのメンバーにも言いたい。ガンガンやろうぜって。

――大山さんはどうですか?

大山 アレンジの時点だと、タイトルとか入っていなかったんですけど、俺、音を揺らそうと思って。ピッチも危ういぐらいの音で録音したんですよね。結果、いいガラクタ感が出たと思います。

7.Parody

――これは、さきほど、最初のほうにできた楽曲だと言っていましたね。

ホリエ そう。これだけすごい古い。

ナカヤマ でも、馴染んでるね。

ホリエ うん。このアルバムのひとつの道しるべになっているかな。でも、この曲もあったから、他の曲もやり切んなきゃなってなった。

日向 これ、やり過ぎちゃったね。だから、他もやり過ぎないとって。

――この曲、いろいろな要素が入っていますもんね。

ホリエ うん。だから作る時に苦労するだろうなって思ったんだけど、そんなに。

日向 結構あっさり。このベーベベッベッベってやつ、弾いたじゃん。そこにOJがのっかってきたの。俺は、5、5、4、3、2、1だったんだけど、OJは5、4、3、2、1、0って下がっちゃったの、よく聴いたら。で、俺はOJに合わせようと思って弾いたのが、このバージョンです。

大山 俺は大胆にのっかっちゃっていたんだ(笑)。

日向 大胆すぎちゃって(笑)。

ホリエ 今知った。OJがベースとユニゾンにしたのかと思っていた。

大山 間違っているって言ってよ!(笑)。

日向 結果、面白いじゃん。

ホリエ 最初はピアノイントロで始まって、徐々に楽器が乗っかってくるイメージだったんですけど、ひなっちが下降していくベースをのせて、そうしたらOJがブリブリに歪んだギターでそのベースラインをなぞったから、この際、イントロをこのフレーズでド頭からラウドにしちゃって、ラウドとジャジーを行き来する曲にしようと。そこまでは意図的だったんだけど、さっきの裏話は初聞きです(笑)。

――メンバーも知らない裏話が出てきました(笑)。結果的に、いろんな音色の起伏が楽しめる楽曲になっていますよね。

日向 ジャズも入っているから。

――テクニカルですよね。

日向 テクニカルじゃないとできない系ですよね。

――かなり。それでいて、敷居が高いわけでもない。

ホリエ そうだね。マニアックというよりは、昭和というか、歌謡曲チック。

――この曲が最初にあると、他の曲もハードル上がったでしょうね。

日向 そう。この曲を作った時、制作が久々で、全部の工程が楽しかったんですよね。だから、やっちまおうっていうので。

ホリエ 改めてアルバム曲のアレンジに取り掛かる時に、先にこの曲を聴いて、クオリティの高さにびびっちゃった(笑)。

日向 どうする?今後、って(笑)。

8.Dry Flower

――「Parody」からの流れを感じる楽曲ですが、関連性は考えたりしたんですか?

ホリエ 関連性というよりは、マイナーコードの曲が多いんですよ、このアルバム。

日向 マイナーが流行っちゃったんだよね。

ホリエ マイナーゾーンに入っちゃったんだよ(笑)。

日向 メジャー求められるじゃん。だけどマイナー気持ちいいよね、みたいな。

ホリエ どっちかというとストレイテナーってメジャーコードなのにエモい曲が多い印象が強いと思うんですけど、このアルバムはマイナー寄りの曲が多い。

日向 これ、世界観を相当出したよね。

ホリエ そうだね。とにかく自然に出てきたまんまの世界観。

日向 サビのリズムがさ、シンペイがこうしようって言ったよね。

ホリエ ジプシー感ね。歌詞は都会の憂いみたいなものもありますね、「Parody」もそうだけど。

日向 こんなんやってるバンド、いねえもんな。

ホリエ やろうとしない(笑)。ストレイテナーは実際やっちゃうもんな。

――ジャズ的なところもあり。

ホリエ うらぶれているというか、枯れた感じ。

――まさに。

ホリエ ギターも枯れた音だしね。

日向 でもさ、OJはもとより得意じゃん。

大山 そうだね。

日向 USインディ聴いてたしさ。こういうピンバックみたいな世界観。だから、すんなりだったんじゃないの?

ホリエ 好きだったUSインディバンドが、90年代はエモバンドなんだけど、2000年代に入ってみんな一回枯れるんですよ。

日向 ド枯れちゃったよね(笑)。そこに行っちゃっているパターンでしょ。

ホリエ その周期がちょうどきたっていう。唐突にやりたくなったんじゃなく、他の曲とも相まって、いい周期にハマったのかなって。だから、違う時期のアルバムだったら、これはちょっと枯れ過ぎかなってなっちゃうかもしれないけど。

大山 結果、このアルバムで一番好きです。

日向 OJが主役なんだよ。

ホリエ 曲名も「Dry Flower」って、めっちゃよくない? 意外と聞かないでしょ、タイトルで。

――たしかに。この枯れ感を、ロックバンドでカッコよく表現するって、なかなかできないと思います。

ナカヤマ 百々(和宏)さんだったら、焼酎を飲みだしちゃうからね。

日向 「芋でよかと?」って(笑)。

9.Maestro

ホリエ 奇妙な曲だね。

日向 頭がわかんなかったんです、プレゼンの時点で。

ナカヤマ たしかに。

日向 (Aメロを聴いて)この歌い回しが、すごすぎる。

ホリエ (笑)。

――この曲も、いろんな要素が入っていますよね。

ホリエ 転調ですね。メロディは全然裏をかいていないけど、コードが転調していくっていう。そこが奇妙さにつながったんだと思います。

――サビに、こう来るの!?っていう驚きがあります。

日向 めっちゃポップだもんね。

――落ち着いたイントロから、疾走感のあるサビにいくという。

ホリエ ギターがのった時、「ルビーの指輪」みたいだと思ったもん。

――ムーディさは通じていますね(笑)。

ナカヤマ だから、流し聴きしていた人は「あのキャッチーなサビの曲、なんだっけ?」って探しても、永久に見つからない(笑)。

――イントロじゃわかんないですもんね(笑)。流し聴きしないで、ちゃんと聴きましょうっていう。

ナカヤマ 思ったんだけど、このアルバム、今までのアルバムの中で、一番カラオケに向いているかも。

日向 そうかも。カラオケで歌いたくなる。

ナカヤマ ストレイテナーの曲って、カラオケで歌うには難しいってよく言われるんです。でも、このアルバムの曲は、歌っていて気持ちいい。歌いやすい。

ホリエ 難しいってよく言われるんだけど、どこが歌い難いのか、節回しなのかな、自分ではよくわかんない。癖だから。


日向 着地するところなんだよね。上行って、着地するところがすげえ難しいんだと思うよ。

ホリエ この曲の天邪鬼感というのは、スピッツっぽいなって自分では思ってるんです。スピッツって、なんだかよくわからない展開をして、急にサビがキャッチーになるっていうの、あるでしょ。

――ああ、たしかに!

ホリエ あと、曲が天邪鬼すぎてブレちゃうけど、歌詞がめちゃくちゃいいんですよ。日常に憂いと影を落としながらも、未来に色を付けたいっていう。

日向 これ、むずかった、マジで。サビの質感とか、どうしようって。毎回そうなんだけどね(笑)。

ホリエ 結構ハネてるもんね、ベース。

日向 布袋(寅泰)さんの「POISON」みたいな。ああいう型ってあるじゃん。斉藤和義さんの曲も、そういうところあるけど。ああいう型をテナーの曲に嵌めるのが、最近好きになってきた。

ホリエ 曲からイメージして、違うアーティスト、先輩方の曲にヒントないかなって。

日向 そう、それが流行ってる。めちゃ嵌るんだ、それが。面白いよ。ポップになるしね。

10.No Cut

日向 やったなあ、これ。

ホリエ この1年で俺たちがやったことって、このアルバム作ったことだけだもんね(笑)。これは、唯一無二のストレートなラブソングですね。実はクリスマスソングなんです。

――おお!

ホリエ (《小さな灯り達が 集まって描き出す/星よりも眩しく 輝く世界で》を聴いて)ここの歌詞は特に。「灯り」にも通じる。このアルバムが12月にリリースされることを意識しながら作りました。そんなこと、できたことないのに(笑)。タイミングを計ったことなんてないからね。史上初かも。

――曲作りに時間をかけられたから、そういうところにも意識を向けられたんですか?

ホリエ そうですね。1曲1曲の持つ意味を明確にしたかったっていう。

日向 そのエピソード、今聞きましたね。

ホリエ あの時期に言ったって、ピンとこないでしょ?

ナカヤマ 夏だったしね。

日向 シンペイは夏好き過ぎちゃうから、シンペイの前で冬は厳禁ですよ。

ナカヤマ 酒がまずくなる(笑)。「クリスマスだあ!?」って。

ホリエ サビのギターと、間奏のギターのフレーズ一緒だよね? 

大山 そう。

ホリエ それがびっくりしちゃった。場面展開してコードも変わっているのに、ギターずっと同じことやってるって。

大山 (笑)。でも俺、サビの音色で、ハンドベルを意識したんですよ。それが今、クリスマスって聞いて。偶然ですね。

日向 マジで!? 感じちゃいまくってるじゃん。

――すごい。バンドならではな話ですね。でも、比較的ストレートな曲ですよね。

ホリエ そうですね。これも引き算したかな。もっとデコレーションしようと思ったけど、全員が音を入れた状態で、そっから鍵盤のアレンジを考えたりするんですけど、あ、いらないかって思っちゃったっていう。だから何もせず、4人の音をそのままっていう感じになりました。ひとり二役とかやっていない。

日向 しかも、結構埋まっている感じがするね。アレンジがいいんだと思う。

ホリエ 誰かに言ってほしいけどね、自分たちで言うんじゃなく(笑)。

日向 いつも自分たちで言っているから。

――アレンジ、いいですよ(笑)。

日向 これは、OJの最初のギターに、僕がのっかっていったパターンです。

大山 あっくんがデモの段階で細かいのを入れていたよね。

ホリエ そうだね、コードをピチカートっぽくね。それを……。

日向 全員でのっかっちゃおうってなったんだよね。

ホリエ それを、ギターとベースふたりでやってほしいって提案して。でも、音階をすり合わせたりは、していないでしょ?

日向 してない。

ホリエ ユニゾンになっているところもあるし、和音のところもある。

日向 なんとなく気持ちいいところにいっているだけ、それぞれ。

ホリエ おもろいよね、それ。同じ方向むいているかと思ったら、別に違ったり。その連続(笑)。

――なんか、それストレイテナーっぽい話だなあ(笑)。

日向 なんとなく作っているだけっていう。

ホリエ そう。口裏を合わせていないの。

日向 口裏を合わせたのは「ガラクタの楽団」の、ホリエくんの最初のいきり立ったプレゼンくらいかな(笑)。

ホリエ (笑)。

11.混ぜれば黒になる絵具

日向 曲のタイトルが……。

――またもやすごいインパクトですよね。

ナカヤマ だいたい混ぜたら黒になるの当たり前なんだけどね(笑)。

――たしかに(笑)。これは、どんないきさつで出てきたんですか?

ホリエ なんか、出てきちゃったんですよね。

――いろんな感情が入り混じっているっていう意味なのかなと、個人的には解釈しましたが。

ホリエ そうですね。感情に色があったら、いろんな感情が混ざって黒になっちゃうっていう。(歌詞の世界観の)車で走っている映像的なところで言うと、信号機の色とか。黒は(歌詞に出てくる)コーヒーの色でもあるし。

日向 僕、(歌詞に出てくる)ラングラーに乗っているんですけど。だいたい、テナーのスタジオが終わると、中央道で帰るんですよ。

――《ラングラーは中央道を西へ走る》ですね。

日向 ドンピシャになっちゃって。この歌が頭から離れなくて、大変です(笑)。

――ラングラーを歌詞に出したのは、日向さんの影響ですか?

ホリエ そうですね。僕も日常車に乗って同じ景色を見てるから。歌詞にする時に、車種名を入れたいと思って、ひなっちのラングラーが気持ち良くメロディに乗ったので、使わせてもらいました。

日向 最初のデモを携帯のヘッドフォンで聴いた時に、マジでか!?と思いました。

ナカヤマ 《ラングラー》って、LINEに入ってきたからね(笑)。

ホリエ 我々の中でのあるあるっていうか、日常の風景で。それぞれ感情の移ろいがあると思うんですけど、そういう話も車に乗っている時にするので、それをすごくリアルに写した、そのまんまの曲です。

日向 ミラーの件も話したよね。

――《手を振ったミラー越しの過去》の歌詞になったエピソードがあったんですね。

ホリエ そうそう。

――景色が見える、温度を感じる曲だとは思いましたが、実際にメンバーのリアルが詰まっていると。

ホリエ 最初からこういう曲にしようとは思っていなかったんですよ。もともと、この曲はアップテンポで、シャウト気味に歌う、エモコアとかスクリーモみたいなイメージだったんです。でも、歌詞を書こうと思った時に、自分の中でガラッとイメージが変わっちゃって。日常的な風景を描きたくなって。ならば、曲もそれに沿って、ミドルテンポにしてアップダウンのないフラットなリズムにしようと思ったんですよね。で、そのイメージで歌詞を書いたら、もうワンコーラスで自分の中で気持ちがいっぱいになっちゃって、2番が作れなかった。

日向 終わっていっちゃうんだよね。

ホリエ 《It’s all right》で終わっちゃう。

日向 これでいいんだ、って思って。

ナカヤマ イーストウッドの映画みたい。

日向 そうだね。まっすぐ。

――もどかしさを抱えながらも、これからも生きていくっていう現実を、歌詞だけではなくワンコーラスや長いアウトロといったアレンジからも感じました。

ホリエ 亡くなった先輩とか、後輩とか、終わってしまったバンドの曲がラジオで不意に流れた時の気持ちも、ここに書いていますけど。

――最近できた曲ですか?

ホリエ そうですね。レコーディングのほんと最後。

ナカヤマ イントロもっと長くしたい、っていうのを考えていた。

ホリエ たしかに、プリプロでは長かったりしたもんね。

ナカヤマ 葛藤があった。

日向 溜めてからの、歌入りっていうね。

ナカヤマ でも、十分溜めてるしな、っていう。

ホリエ ライブになったら、この倍やっちゃうとか。

日向 そうだね、ライブでやればいいんだ。

ホリエ いつ歌うんだ?って(笑)。

日向 歌わないで終わっちゃう(笑)。

ホリエ 最初はイントロ3人じゃん。その時のOJを見ていたい。全然歌わないと、OJが待っているっていう(笑)。

日向 そういう時のOJは「俺、待ってるぜ」って顔をしているよね(笑)。

ホリエ でも、途中から芝居をしだすよね(笑)。「待っていないぜ」って。

日向 「そういうことね」ってわかるタイミングね。

大山 え、ディスられてる?(笑)。

日向 それがOJっぽい。俺が間違ってもすげえ見られる(笑)。

ナカヤマ いや、普通に見ているんだけど、圧が強いの(笑)。

ホリエ でも、OJも「あれ?俺が間違った?」みたいな時もあるよね。

――ライブで大山さんの細かい表情に注目する人が増えそうです(笑)。

ホリエ この曲を録り終わった時に、ディレクター氏がちょっと泣いていたんですよ。

ナカヤマ 泣くよね。特に、アルバムを通して聴いたら泣くと思う。で、泣いていないのに「泣いた」ってツイートしていると思う(笑)。

日向 よくファンさんから言われるよね、「泣きそうになりました」。泣いていないんかい!(笑)。力及ばず。

ホリエ その話を幕張ワンマンのMCでしたら、それ以降はファンさんが「泣きそうでした。いや、泣きました」って言ってくれるようになった(笑)。

日向 「泣きそうでした」って1回は言っちゃうんだよね。

――このアルバムのラストにふさわしい楽曲ですよね。

ホリエ そうですね。

日向 早い段階で言っていたもんね。

ホリエ 不思議なもんで、エンジニアの菅井くんも、この曲をどういう位置付けにするかによって、ミックスのやり方が変わるんで、教えてくださいって言っていて。

日向 菅井もなあ、アーティストよのう(笑)。

ホリエ 音像が生々しいよね、ドラムとか叩いたまんま。

日向 オルタナティブな仕上がりだよね。

ホリエ 分離感がある。

――全部を通して、ずっしり……いや、ずっしりかな?

ホリエ 短いんだよ。40分ないんですよ。

――そうなんだ! でも、内容は詰まっていますよね。

日向 このボリュームだもんね。11曲でしょ? プリンスだったら70何分だよ。

ナカヤマ プリンスだったら最後の曲のイントロは3分あるでしょ(笑)。
オフィシャルライター:高橋美穂